女性がママになっても働きがいを感じながら活躍できる組織とは ~Great Place To Work(R) Institute Japan 岩佐真裕子さん

共働き家庭の増加に伴い、社会において男性の積極的な育児への参加が徐々に進んでいる一方で、女性の働きがいはどうなっているのでしょうか。そして、ママになっても働きがいを感じられる組織とは何かを探っていきましょう。

岩佐 真裕子さんのプロフィール

Great Place To Work(R) Institute Japan
シニアコンサルタント

保険会社にて、営業・企画などを経て、Great Place To Work(R) Institute Japan に参画。
大手企業を中心に各社の調査実施のサポート、分析、経営層への提言や働きがい向上支援を行う。さらに、調査データの分析研究やグローバルでの調査プロジェクト対応などにも幅広く携わっている。

「働きがい」は“働きやすさ”と“やりがい”の両方が大切

まず始めに、貴社の事業内容を教えてください。

Great Place To Work(R) Institute(以降、GPTWと表記) は、世界的な従業員意識調査機関です。約150ヶ国で年間10,000社以上の働きがい(エンゲージメント)を調査し、一定水準に達した企業を「働きがいのある会社」認定・ランキングとして各国の有力メディアで発表しています。30年間のデータに裏付けされた方法論を用いて調査、評価を行う認定・ランキング制度は、企業における組織開発、採用ブランディングやIR・人的資本開示の目的で広く活用されています。日本においても、2005年より活動を開始しました。

「働きがい」は漠然とした言葉ですが、GPTWではどのように捉えていますか。

GPTWは、「働きがいのある会社」とは“働きやすさ”と“やりがい”の両方がかね備わった組織であると考えています。国を挙げて推進されている「働き方改革」の多くの施策は、残業削減や休暇取得の促進など、“働きやすさ”の改善に主眼を置いているようです。GPTWでは、“働きやすさ”だけではなく、仕事に対するやる気やモチベーションなどを指す“やりがい”をもたらすことが「働きがい」を高め、業績を向上させていく上で重要だと考えています。こちらを踏まえ、GPTWでは、「マネジメントと従業員の間に『信頼』があり、一人ひとりの能力が最大限に生かされ、優れた価値観やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができる組織」を「働きがいのある会社」と定義しています。

男女問わず正当に扱われることが女性の活躍において鍵となる

女性の働きがいが高い企業と、そうでない企業ではどのような違いがあるのでしょうか。

従業員の働きがい向上に取り組んでいる企業では、積極的に女性の活躍も推進しているため、結婚や出産等のライフイベント後も働き続けられるようなサポートが行われています。そのような“働きやすさ”は大前提として、男女問わずあらゆる立場の従業員を対象に働きがいの高い職場づくりを推進しています。男女によってかける期待に差はなく、仕事内容も変わりません。一方で、女性が男性に比べて働きがいが低い企業においては、女性がサポート的な役割を主に担うなど、男女による仕事の差が見られるケースがあります。裁量があまり与えられず、ルーティンの業務が多い場合は、”働きやすさ“はあるものの、”やりがい“を感じにくい環境となることが多いようです。また、管理職の多くを男性が占めているケースも、男性より女性の働きがいが低い場合があります。管理職のほとんどが男性の場合、女性の考えや意見が組織づくりに反映されないと感じられてしまうのかもしれません。また将来のキャリアイメージも持ちにくくなる可能性があります。

女性を含むあらゆる人の働きがいを高めることが女性管理職比率も高める

日本では女性管理職比率が低いことが課題視されていますが働きがいと関係はあるのでしょうか。

女性管理職比率は、働きがいとの関係が見られます。女性管理職比率の高さで群を分け、働きがいのスコアを見たところ、以下のように結果がでました。女性管理職比率が高い職場は、働きがいのスコアも高い結果となっています。

※働きがいスコア=GPTW設問「総合的にみて働きがいがあると言える」のスコア
出典:GPTW Japan『2023年版「働きがいのある会社」女性ランキング 傾向解説』(2023)

それだけでなく、女性管理職比率の高い職場の方が働きがいのスコアも高いという傾向は、以下の通り女性・男性のいずれにも確認されています。

※働きがいスコア=GPTW設問「総合的にみて働きがいがあると言える」のスコア
※高群=女性管理職比率30%以上、中群=9.4%以上30%未満、低群=9.4%未満
出典:GPTW Japan『2023年版「働きがいのある会社」女性ランキング 傾向解説』(2023)

男女問わず、働きがいを感じられる職場づくりを推進することは、女性管理職比率を高め、ジェンダーパリティ(ジェンダー平等)を目指すためにも重要です。

企業には、“働きやすさ”と“やりがい”の両面からのアプローチが求められる

働くママが働きがいを持って仕事と両立するために、企業に求められる取り組みとはどのようなものでしょうか。

まずは、働くママが育児と仕事を両立できるような制度や柔軟に働ける環境づくりが大切です。育児においては、子供の急な体調不良など、予定どおりに仕事を進められないことも発生します。そのような場合でも仕事との調整ができるよう、テレワークやフレックスタイム制度、柔軟に取得できる有給休暇制度など、従業員の声を聴きながら整備できると良いでしょう。
また、“働きやすさ”だけでなく“やりがい”も大事です。働く時間や仕事量の調整が必要な部分はあるかもしれませんが、育児によってキャリアが左右されてしまうことのないような配慮も大切です。そして、育児はママだけでなくパパや場合によっては他の立場の方が担うものであるため、女性に限らず男性を含むあらゆる従業員が育児に携われるように制度の整備、文化の醸成を行うことが、最終的に働くママの育児と仕事の両立を助けるものとなります。男性の育休取得は法改正もあり注目が高まっていますが、根付かせるためには会社側からの積極的な働きかけ、風土づくりが引き続き重要と言えます。

女性の働きがいが高い企業は設備と制度の両面で手厚い取り組みが見られる

女性の働きがいが高い企業の具体的な取り組み事例をいくつか教えてください。

働くママに関連した施策としては、働きやすい制度や設備が整っている例が多く見られます。例えば、授乳室や母乳を冷凍できる冷凍庫が整備されている、急なトラブル時にも子供を預けられるよう社内にベビーシッターが常駐している、女性同士や役員とのネットワークが構築されていて、いつでも相談できるシステムが設けられているなどです。どのような設備や制度があれば働くママが働きやすくなるかが考慮されており、中には驚くほど手厚い制度もあります。また、女性の活躍を阻むことがないよう、従業員の教育や評価、昇進の仕組みにおいて力を入れている企業もあります。例えば、昇進候補者を検討する際に、評価内容にアンコンシャスバイアス(無意識な思い込み)が働いていないか、正当な評価がされ適切な機会を与えられているかなどの観点から、レビューを行うケースです。特に男女で評価に差が無いか、男女間で成長のために与えられている職務や職責に不公平な差が無いかという点に着目して議論するなど、注意深く対応されています。

働くママの悩みは職場の仲間と共有し、解決につなげる

最後に、働くママへメッセージをお願いします。

働くママは、仕事も育児もうまく行っていないのではないかと悩む場面があると思います。そのような時に相談できる人や場を持っていることは大事です。会社の中に働くママ同士を繋ぐ交流の場や、パパ・ママ会といった子育てと仕事の両立について相談ができる機会があると良いかもしれません。余裕がない時もあるかもしれませんが、時に立ち止まり、働きがいを感じながら仕事と育児を両立するにはどうしたらいいかを考える時間をつくることをおすすめします。

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