公園の遊具や施設の製造・販売を行う日都産業株式会社。創業はなんと1939年という歴史ある会社です。皆さんも知らず知らずのうちに同社の製品で遊んでいるかもしれませんね。
そんな日都産業株式会社では、在宅勤務を取り入れて毎日の出社が難しくても働ける環境を整えています。きっかけは、ある女性デザイナーの思いと行動力でした。
今回はその女性社員、門倉さゆりさんと総務部の萩原雅和さんにインタビュー。在宅勤務を取り入れたことによる会社の変化、そして門倉さんの育児と仕事の両立についても話を聞きました。
名前:萩原雅和
職業:日都産業株式会社 総務部
お子さんの年齢:長女13歳、長男11歳、次女8歳
居住地:東京都
名前:門倉さゆり
職業:日都産業株式会社 公園遊具デザイナー
お子さんの年齢:3歳、2人目妊娠中
居住地:東京都
在宅勤務制度を取り入れるまでの道のり
➖御社の在宅勤務のシステムについて教えてください。
萩原さん 現在は、会社が認めれば誰でも在宅勤務ができる体制になっております。
➖お2人の現在の働き方を教えてください。
門倉さん 今は週1回出社で、あとは在宅です。コロナ禍前は、週3回出社していました。今考えると多いですね(笑)。
萩原さん 私は週1、2回在宅で、残りが出社です。
➖在宅勤務第1号が門倉さんとお聞きしました。
門倉さん はい。結婚をきっかけに今後のことを考えてみたら、在宅勤務の制度を導入してもらわないと仕事を続けていくことは厳しいかなと思ったのです。それは私だけの問題ではありません。当時、デザイン課は同世代の女性3人と男性上司1人の計4人という構成で、女性社員はいつ妊娠や出産というライフイベントを迎えてもおかしくない年齢。この先どうなるのか不安でした。
➖それで在宅勤務の制度を導入してほしいと、会社に働きかけをされたのでしょうか。
門倉さん そうですね。まずは資料を集めて上司に相談して、さらにその上の工場長にも直接連絡してみるなど、いろいろやってみました。けれど、それが2015年のことですから、「テレワークって何?」みたいな感じで、あまりピンと来ないようで……。それで萩原さんにご協力をお願いしたんです。
➖萩原さんは、門倉さんからご相談を受けた時どのように感じられましたか?
萩原さん これまでも出産や育児で仕事を辞めざるを得なかった社員はいました。ですから、働き続けられる方法が何かあれば、もしかしたら辞めずに済んだのかなという思いはずっとありました。ですから門倉から話を聞いたとき、家庭の事情で辞めざるを得ない人でも在宅勤務という働き方があれば何とかなるのではと考え、これを制度として導入できるように持っていきたいと思いました。それができるのが私のいる総務部門なので、一緒に考えさせてくださいということで、取り組むことにしました。
その後、門倉ともう1名がこれから出産という話があった時に、お試しで在宅勤務をやってみようかという話に持っていけたのです。それが2017年のことです。実現までに時間はかかりましたが、在宅で仕事をどんなふうにやっていけるのかを彼女たちが実際に見せてくれて、これなら大丈夫と確信できました。
育児だけでなく介護など、フルタイムで出社することができなくなる状況は、ほとんどすべての社員に起こり得ることです。ですから、在宅勤務の制度を全社的に広げられたらという思いで進めてきました。
➖実際に在宅勤務が制度化されたのはいつですか?
萩原さん 直接のきっかけは、新型コロナウイルス感染症です。2020年4月に第1回目の緊急事態宣言が発出されたタイミングで制度化しました。
それまでは、あくまで試験的に行っていましたので、社員の中でも「なんだろう?」という感覚の人は結構いたと思うんです。それが今や在宅勤務は当たり前で、「あ、今日は会社にいないんだ。じゃあそっちに電話するね」とか、そんなやりとりが普通になっています。最初は抵抗もあったかもしれませんが、在宅勤務に移行できたから、コロナ禍という緊急事態も乗り越えてこられたのではと思います。
➖緊急事態宣言下になってから在宅勤務を考え始めていたら、遅かったからもしれないですね。
門倉さん そうだと思います。
➖今は会社が許可すれば誰でも在宅勤務ができるとのことですが、職種によっては難しいこともあるのではないでしょうか。
萩原さん 確かに製造部門など、どうしても現場に行かないとできない仕事はあります。けれど、門倉たちがやってきたように、これは在宅でできるというのを上長に説明して理解してもらえれば、職種によっても可能だと思います。
在宅勤務でかえってコミュニケーションが円滑に⁈
➖実際に在宅勤務をしてみて社内の反応はどうでしたか?
門倉さん 私のいる部署では、全員が週何日か在宅勤務をしていて、みんないい制度だと思っているようです。
➖在宅勤務になってよかったことはどんなことですか?
門倉さん コミュニケーションが円滑になったと思います。
➖在宅のほうがコミュニケーションがよくとれるんですか?
門倉さん 私のいる部署は技術部門で、基本的に個人プレー。出社しているとあまり会話をしないんです。以前は他の人がどんな仕事をしていて、どれくらい進行しているのかも知りませんでした。それが在宅になってからはチャットを取り入れて、毎日の仕事の状況を画面キャプチャで送り合うようになりました。みんなの仕事が見えて、何を考えて仕事しているのかが分かるようになったんです。雑談もチャットの方が逆にしやすいですね。
➖女性の活躍ぶりや働きやすさは、入社当時と比べて変化した実感はありますか?
門倉さん 今辞めずに済んでいるというところが、まず一つかなと思います。
➖在宅勤務の制度がなかったら、会社を辞めていた可能性もあったのでしょうか?
門倉さん 実家の近くに家を建てたので、会社までドアツードアで2時間かかるんです。とても毎日通うことはできないので、多分辞めていただろうなと思います。
➖萩原さんはいかがでしょうか。
萩原さん 基本的に会社でやる事と自宅でやる事は同じです。書類の確認の仕方なんかは会社でやる時と変わりますが。在宅勤務の時には、どうしても出社している人の力を借りなくてはなりません。ですから、同じ業務をしている人が同時に在宅勤務にならないような工夫はしています。
➖現在感じていらっしゃる課題はありますか?
萩原さん 私がいる総務部門では、紙の資料もとに確認や資料作成をしています。緊急事態宣言が何度か出るという状況の中で、やむを得ず自宅に紙の資料を持って帰ることがあるんですね。それに関しては、直近何とかしないといけないという課題は持っています。
➖紙の資料を持って帰らずに済む仕組みを整えるということでしょうか。
萩原さん 資料をデータで受け取るようにするとか、全部外注に出すとか、やり方はいろいろあると思います。大まかな仕組みはイメージできているので、後はどのように導入するのかを詰めて会社のOKをもらえるよう進めていきたいですね。
門倉さんのこれまでのキャリア
➖門倉さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
門倉さん 専門学校卒業後24歳で入社して、ずっとデザイン課にいます。もともと学校でプロダクトデザインという分野の勉強をしていました。ペン1本から車のデザインまで、プロダクトデザインは幅広いんです。その中で、自分がやりたいと思ったのが公園遊具でした。そこで公園遊具のメーカーを探していたところ、たまたま日都産業が求人を出していたんです。縁を感じて応募したら運よく採用していただきました。
➖やりたい仕事に巡り合えたから、在宅で続けたいという思いをいろいろなところにぶつけることができたのでしょうか?
門倉さん そうですね。一生続けられる仕事を選んだつもりだったので。だからといって、出産や結婚をあきらめるのも嫌だと思いました。
➖仕事のブランクはあったのでしょうか。
門倉さん 私が第1子の育休に入った時期は、ちょうど同じデザイン課でもう1人も育休をとっていました。ですから、育休中はアルバイトという形態になるのかな、時給で1日3時間とか、完全在宅でお手伝いしていました。人手不足に陥ってしまって悪いなという気持ちもありましたし、育児以外の事も少しやる時間がほしいとも思ったので、上長に相談してそのようなかたちになりました。
復職は1年3ヶ月後くらいですね。ですから、ブランクがあったといえばありましたが、浦島太郎になっちゃったみたいなことはないですね。
➖1日3時間でも仕事をしていたから、復職もすんなりと行ったのでしょうか。
門倉さん もちろんそれはあると思います。
➖在宅で効率よく仕事をする工夫はありますか?
門倉さん システム的なことは会社が全部やってくれているので、スムーズに仕事ができています。自分のモチベーション的な部分だと、好きな音楽をかけたり、家の中で仕事する場所を変えて気分転換したりしています。
➖在宅と出社では、仕事の内容は変わるのでしょうか。
門倉さん 基本的には在宅でも出社でもやる仕事は変わりません。ただ、紙で確認するなど出社しないとできない作業もあるので、そういうものは出社した時にまとめてしています。
➖育児と仕事を両立するための工夫はいかがですか?
門倉さん 仕事をしている間は保育園に行ってもらっているので、保育園さまさまです!ただ、出社する時は子どもが寝ている間に家を出ないといけなくて、いつも泣かれてしまうので申し訳ない気持ちになります。
一方、在宅勤務の時は朝送り出して帰りも迎えに行ってあげられるので、ありがたいですね。早く迎えに行ける時は帰りに公園に寄って遊ぶこともあり、それがそのまま実務に生かされています。これは、デザイン課で在宅勤務をしている他の人も同じことを言っていました。
大変だったのは、緊急事態宣言で保育園が休みになったときです。仕事をしながら子どもを見なければならず大変でした。仕事にならない日が多かったです。子どもが昼寝をしている間とか、時間外ですけど夜寝た後にやらないと仕事が回らなかったですね。
➖ところで、御社ではどのような人材を求めていますか。
萩原さん 門倉が上長やその上の工場長にまで話をしたのは本当にすごいなと思っていて、そんなふうに自分から動ける人材がいろんな部署に入ってきてくれると、今以上にもっと素敵な会社になるんじゃないかなと感じています。「うちの会社なんか中小企業だから無理だよ」というところも結構あると思いますが、当社も古風な社風でしたし、よく導入できたなと正直思っているんですね。自分から周りに影響を与えるような人材が増えると毎日楽しいと思います!
門倉さん ありがとうございます(笑)。
はたママ読者へのメッセージ
➖最後に、はたママ読者へのメッセージをお願いいたします。
萩原さん この在宅勤務という働き方によって、自分だけでなく家族にとっても、従来の“当たり前”が大きく変わったと思っています。家族を感じながら仕事ができて、とてもありがたいですね。たとえば学校から呼び出しあれば、一時的に外出して対応することもできますし、家族との時間が増えて、より充実しています。
今ご自分が働いている会社で在宅勤務の制度がなかったとしても、当社のように、社員の働きかけによって制度ができた例もあります。もし、このままでは仕事を続けられないと思う時があったとしても、あきらめないでいろんな情報を探してトライしてみてほしいなと思います。私たちでよければ、当社の事例についてお話しすることもできますので。
門倉さん 自分のやり方次第で、プライベートも仕事もあきらめずにいい人生を作っていけるのではないでしょうか。小さな子どもを抱えて仕事を辞めざるを得ないお母さんは、今まで大勢いたと思います。せっかく一生懸命勉強して就活も頑張って入った会社なのに、それはもったいないですよね。
子どもはいずれ手が離れていきます。ただ、そうなってから仕事を探しても元のキャリアには戻るのは難しいという話も耳にします。そんな話を聞くと、人のことでも私はすごく悔しく思うんです。ですから、もし仕事が続けられない状況になりそうだったら、ぜひ自分から動いてみてほしいなと思います。
編集後記
自分のキャリアを見据え、会社に在宅勤務導入を訴えた門倉さん。そして、その思いに伴走し制度を整えていった萩原さん。伝統ある会社だからこそ、制度を変えていくには難しいこともあったと思います。けれど、あきらめずに自分の情熱を伝えていけば、いつか理解者は現れるはず。そんな勇気をもらえたインタビューでした。
そして、前もって在宅勤務を試行していたから、コロナ禍という大きな変化を乗り越えられたという話も興味深く聞きました。これからの時代、社会情勢の変化に柔軟に対応できる勤務体制を整えておくことは必須だと改めて感じました。