働く女性が妊娠中から子供が3歳になるまで利用できる経済支援について

労働力人口が減少する中、働く女性の妊娠や出産・育児離職を防ぐため、これまで様々な両立支援制度が創設されてきました。しかし「仕事を休むと収入が減ってしまう」という不安から、産前直前まで出勤し、子供が1歳になる前に職場復帰するケースが多いです。当記事では、働く女性の妊娠中から子供が3歳になるまで受けられる給付や免除などの経済支援について詳しく紹介します。

1 妊娠悪露や切迫流産、切迫早産などで仕事を休む間の生活保障「傷病手当金」とは?

健康保険などの被保険者が、病気やケガなどの療養のために仕事ができない場合、生活保障として傷病手当金が受給できます。また妊娠中に悪阻(つわり)、切迫流産、切迫早産等で、医師に労務不能と診断された場合も傷病手当金が受給できます。

1.1 傷病手当金の支給要件

下記の要件をすべて満たしている場合、傷病手当金を受給できます。

  • 病気やケガなど(労働災害・通勤災害や美容整形などを除く)の療養のために仕事を休んだ
  • 医師または歯科医師に、仕事ができない(労務不能)と診断された
  • 療養のため連続して3日間(土日祝日、有給休暇も含む)仕事を休み(待期期間)4日目以降も療養のために休んだ
  • 療養のため仕事を休んでいる間、給与を支払われていない。または傷病手当金の日額より少ない金額の給与が支払われた

傷病手当金は、医師等の診断を受けた日から対象となるため「体調不良で早退して受診したところ、5日間労務不能と診断された」という場合、早退して受診した日も待期期間としてカウントされます。妊娠中に気になる症状がある場合は、早めに受診しましょう。

1.2 傷病手当金の支給期間・支給額

傷病手当金は、病気等の療養のため、仕事を休んだ初めの連続した3日間については支給されず、4日目から支給されます。支給期間は、支給開始日から、通算して1年6か月までです。

また1日当たりの支給額は、下記の計算式で求められます。
1日当たりの金額
=支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)


入社1年未満の方など、支給開始日前の期間が12ヵ月未満の場合は、下記(1)または(2)のどちらか低い額を使用して計算します。

(1) 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額

(2) 標準報酬月額の平均額
  ・30万円※:支給開始日が平成31年4月1日以降の方
  ・28万円※:支給開始日が平成31年3月31日までの方
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額

傷病手当金の日額より少ない金額の給与が支払われた場合は、傷病手当金の日額と支払われた給与の差額が、支払われます。

なお傷病手当金と出産手当金の給付を同時に受けるときは、傷病手当金の額が、出産手当金の額よりも多ければ、その差額を支給することになります。

出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」

2 産前産後休業中の生活保障「出産手当金」とは?

妊娠中の働く女性は、出産予定日が6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すると産前休業が取得できます。なお出産当日は産前休業に含まれます。
また事業主は、産後8週間(妊娠4カ月以上の死産や流産も含む)を過ぎていない女性を就業させることが禁止されています。本人が希望し、産後6週間を経過している場合は、医師が支障がないと認めた業務に就業させることができます。
健康保険等の被保険者が、この産前産後に仕事を休んで報酬を受けてない場合、出産手当金が受給できます。

2.1 出産手当金の支給額

出産手当金の1日当たりの支給額は、下記の計算式で求めた金額です。
1日当たりの金額
=【支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】※÷30日×(2/3)
(支給開始日:いちばん最初に出産手当金が支給された日)

なお入社1年未満の女性など支給開始日前の期間が12ヵ月未満の場合は、「1.2傷病手当金の支給期間・支給額」の(1)または(2)のどちらか低い額を使用して計算します。

産前産後休業期間に、給与の支払いがあっても、その給与の日額が、出産手当金の日額より少ない場合は、出産手当金と給与の差額が支給されます。

出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(出産手当金)」

3 2023年4月1日から給付額が増えた「出産育児一時金」

出産育児一時金は、被保険者およびその被扶養者が出産した時に、加入する公的医療保険に申請すると支給されます。なお双生児以上の多胎児出産だった場合は、出産した人数分の金額が支給されます。なお妊娠85日(4ヶ月)以後の早産、死産(流産)、人工妊娠中絶(経済上の理由による中絶を除く)も、出産育児一時金の対象になります。

3.1 出産育児一時金の給付額

出産費用が、年々上昇している状況を受け、2023年4月1日から出産育児一時金の給付額が1児につき50万円※に引き上げられました。

・産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合
2023年4月1日以降に出産した場合は、1児につき50万円※
2022年1月1日から2023年3月31日までに出産した場合は、1児につき42万円
2021年12月31日以前に出産した場合は、1児につき42万円

・産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合または産科医療補償制度加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合
2023年4月1日以降に出産した場合は、1児につき48.8万円
2022年1月1日から2023年3月31日までに出産した場合は、1児につき40.8万円
2021年12月31日以前に出産した場合は、1児につき40.4万円

3.2 退院する時に高額の支払いを避けるための直接支払い制度

あらかじめ、出産予定の病院窓口などで「直接支払制度の利用に合意する文書」の内容に同意して提出しておくと、産後退院する時に高額の支払いを避けることができます。
直接支払制度を利用し、出産にかかった費用が出産育児一時金の支給額を超えた場合は、超えた額を病院などへ支払います。直接支払い制度を利用しない場合は、退院する時等に出産にかかった費用を自分で支払い、加入する公的医療保険に申請書など必要な書類を提出すると、後日に出産育児一時金が支給されます。

4 育児休業給付金

雇用保険の被保険者の方が、1歳(両親が取得する場合は1歳2か月。待機児童などの場合には最長2歳)未満の子供を育てるために育児休業をした場合、一定の要件を満たすと育児休業給付金の支給を受けることができます。

4.1 育児休業給付金の支給要件

1歳(両親が取得する場合は1歳2か月。待機児童などの場合には最長2歳)に満たない子供を養育するために育児休業をする雇用保険の被保険者の方で、育児休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数(原則、日給者は各月の出勤日数、月給者は各月の暦日数)が11日以上ある完全月(当該完全月が12か月に満たない場合は賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上である完全月を含む)が12か月以上ある方が対象です。

4.2 育児休業給付金の支給額

育児休業給付金の支給額は、下記の計算式で求めた金額になります。

休業開始時賃金日額(※1)×休業期間の日数(※2)(原則30日間)×67%(※3)

※1原則、育児休業開始前6か月間または育児休業開始日前の2年間に完全な賃金月が6か月に満たない場合、賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上である賃金月6か月の間に支払われた賃金※の総額を180で除した金額

※臨時に支払われる賃金と3か月を超える賃金を除く

※2 休業終了日の属する支給単位期間は、休業終了日までの日数。支給単位期間中に退職した場合、退職日の属する支給単位期間の前の支給単位期間までが支給対象

※3 育児休業開始から181日以降は50%

4.3 令和5年8月1日から変更された支給上限額と支給下限額

令和5年8月1日から令和6年7月31日までの育児休業開始時賃金日額の上限額は15,430円、下限額は2,746円となります。

支給日額が30日の場合の支給上限額と支給下限額は、下記の金額となります。

  • 給付率67%の支給上限額は310,143円、支給下限額は55,194円
  • 給付率50%の支給上限額は231,450円、支給下限額は41,190円

出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続(2023(令和5)年8月1日改訂版)」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001126859.pdf

5 産前産後・育児休業中の雇用保険料、健康保険・厚生年金・国民年金の免除は?

労働者負担分の雇用保険料は、毎月支払われる給与や賞与から控除されています。よって産前産後・育児休業中に会社から給与を支給されない場合は、雇用保険料の負担はありません。

産前産後休業・育児休業中の健康保険・厚生年金保険料については、健康保険または健康保険組合に加入する会社が、年金事務所または健康保険組合に申出をした場合、被保険者負担分と事業主負担分の両方が免除されます。また、厚生年金保険に加入せず、国民年金だけに加入している女性も、出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除されます。また2022年10月1日から、産後パパ育休(出生時育児休業)が取得できるようになりました。養子縁組をする場合、女性も産後パパ育休が取得でき、休業期間中の健康保険・厚生年金保険料が免除されます。

5.1 産前産後・育児休業中の健康保険・厚生年金保険料の免除期間

2022年10月1日から、育児休業等期間中の健康保険・厚生年金保険料の免除要件が改正されました。現在、産前産後・育児休業・産後パパ育休中に健康保険・厚生年金保険料が免除されるのは、下記の期間です。

  • 産前産後休業をした期間
  • 育児休業・産後パパ育休を開始した日が含まれる月から、終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間(子供が3歳に達するまで)
  • 育児休業等開始日が含まれる月に14日以上育児休業等を取得した場合
  • 賞与に対する保険料は、連続して1か月を超える育児休業を取得した場合に限り免除される

厚生年金に加入せず、国民年金のみに加入する女性の場合、産前産後期間の国民年金保険料が免除されます。免除される期間は、出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間の国民年金保険料が免除されます。なお出産とは、妊娠85日(4カ月)以上の出産をいい、死産、流産、早産された方も含みます。
双子以上の多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3カ月前から6カ月間の国民年金保険料が免除されます。なお、産前産後期間は付加保険料の納付ができます。

5.2 免除期間中、健康保険の給付や年金額への影響は?

健康保険料の支払いを免除されている期間も、傷病手当金や出産育児一時金・出産手当金等の給付を受けることができます。また厚生年金・国民年金の保険料を免除された期間は、老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給する時、保険料を支払っていた期間として、将来の年金額に反映されます。

6 復職後に時短勤務で給与が減った場合の健康保険・厚生年金料は?

健康保険・厚生年金保険では、毎年4・5・6月分の報酬(給料など)をもとに9月から翌年8月までの標準報酬月額が決定され、毎月の保険料を求めます。このため、産前産後休業や育児休業等を終了後、短時間勤務制度の利用等育児のために報酬が低下した場合、報酬の額と標準報酬月額に大きな差が出ることがあります。産前産後休業または育児休業の終了時に、被保険者が事業主を経由して「健康保険・厚生年金保険産前産後休業終了時報酬月額変更届」または「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」を年金事務所または健康保険組合に提出した場合は、変動後の報酬に対応した標準報酬月額に改定できます。

7 3歳未満の子供を養育する期間の従前標準報酬月額のみなし措置

子供が3歳になるまで、養育期間中の各月の標準報酬月額が、養育を始めた月の前月と比べて低下した期間については、将来受け取る厚生年金額の計算をする時、養育を始めた月の前月の標準報酬月額(従前標準報酬月額)を子供が3歳になるまでの期間の標準報酬月額とみなします。子供の養育を始める前に退職し、その後養育期間内に再び働き始めた場合などは、養育を始めた月の前月より直近1年以内で、最後に被保険者であった月の標準報酬月額が、従前標準報酬月額とされます。被保険者の申し出があった日よりも前に養育期間がある場合、養育期間のうち申出日が含まれる月の前月までの2年間について、さかのぼってこの措置が受けられます。

出典:厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533_00002.html

8 まとめ

今回ご紹介した傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金は非課税のため、年末調整の際、申告は必要ありません。また前年の収入によって税額が決定される住民税についても非課税のため、次年度の算定をする際、収入に含まれません。勤務先に妊娠・出産の報告をする時に、上記の制度を利用したいことを早めに伝えておきましょう。

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池口由里絵社会保険労務士
2015年3月に、島根県益田市にて社会保険労務士事務所を開業した池口由里絵と申します。 人材不足や改正育児介護休業法・2024年問題への対応などの労務管理に悩む社長さまのご相談をオンライン・メール・電話・訪問などご希望の方法で承っております。